アルツハイマー病治療薬開発に、より強固な知財保護策を

本資料は、米国イーライリリーのデイブ・リックス会長&CEOが、 2019 年 9 月に発表したブログ記事を日本語 に翻訳したものです。内容および解釈については原本である英語が優先されます。日本の法規制などの観点から一部、 削除、改変または追記している部分があります。また、本資料は他のウェブサイト(英語)へのリンクを提供していますが、当社はリンクする他のウェブサイトの内容を管理しておらず、また何らの責任を負いません。

 

イーライリリー&カンパニーのデイブ・リックス会長&CEOによるLinked Inのブログ記事をご紹介します。

アルツハイマー病は世界で最も心配されている疾患の一つですが、それにはもっともな理由があります。この疾患は患者さんの過去のみならず未来をも奪うのです。アルツハイマー病の進行を遅らせる治療薬はありません。

 

効果的な治療薬がなければ、アルツハイマー病がもたらす健康上の危機がやがては世界的な経済上の危機へと発展するでしょう。既に米国政府は、アルツハイマー病患者の介護に1時間毎に2千万ドル以上の税金を費やしています。世界全体では、記憶を奪うこの疾患に苦しむ患者さんの数が5千万人から8千万人以上へと急増することから、介護にかかるコストは今後10年間に倍増すると予想されています。

 

先日ファイナンシャルタイムズに寄稿した論説で、私は、アルツハイマー病がもたらす財政上の危機はイノベーションによって変えることができると述べました。しかしそのためには、各国政府が先発医薬品のイノベーターに対する保護政策を変える必要があります。薬事承認プロセスを経てアルツハイマー病治療薬を世に送り出すためのコストは、試験に長い期間が必要なこと、開発に失敗する確率が高いこと、そして患者を治療する医師の負担の重さから、通常の医薬品の2倍以上になります。

 

(アルツハイマー病がもたらす課題、そして可能性のあるソリューションについての詳細な議論は、2019 Global Innovation Indexのサイト(英語)をご覧ください。)

 

知財政策の問題

この課題に対する1つのソリューションが知的財産(知財)に関するルールです。特許および他の知財関連のルールでは、イノベーターである先発医薬品会社が開発コストを回収できる期間を制限しています。そのため製薬会社はアルツハイマー病よりも臨床試験が早く終了し、失敗する確率が低い疾患領域に開発投資を向ける傾向があります。

 

製薬会社は、世界全体の社会的コストがほぼ同じの疾患の場合、長期の試験期間が必要な領域より短期の試験期間の領域に投資する傾向があります。アルツハイマー病の治療薬候補より20倍以上多い数の抗がん剤の研究を行っています。がんのなかでも、より短い生存期間が予測されるステージのがんに投資が流れています。アンメットニーズが高いとも言えますが、より早い段階の治療介入や進行が遅いがんには長期の試験期間が必要で、医薬品が特許で保護される期間のうちほとんどを消費してしまうという事実も影響しています。

 

特許による新薬の保護期間は20年です。しかし、その20年の計算は臨床試験が始まる前に、つまり新薬の販売承認より何年も前に始まります。そのため、臨床試験に追加で1年かかるごとに、特許で売上が保護される期間が1年短くなるのです。

 

過去20年間に、米国およびヨーロッパにおける承認後の平均特許期間は13年まで落ち込みました。開発期間がより長期化する一方で特許による保護期間は固定されていることから、先発医薬品会社に、患者さんが最も必要とする医薬品ではなく、より短い開発期間が見込める化合物を優先するという逆インセンティブをもたらしてきました。

 

各国政府の中には、長期間の臨床試験に費やされた期間を取り戻せるような特許期間延長政策により、この逆インセンティブを解消しようとしているところもあります。それは良いでしょう。しかし、データ保護期間の方がより良い解決策でしょう。

 

ソリューション: データ保護期間

世界各国のデータ保護期間は、12年の長期におよぶ国からゼロの国まで様々に異なります。少なくとも12年を標準にすることで、アルツハイマー病のように困難で進行の遅い疾患への投資を促進するでしょう。

 

データ保護期間は、短期間で開発される医薬品にはわずかの恩恵しかもたらさないでしょう。あるいは恩恵はゼロかもしれません。なぜなら、そのような医薬品の場合、保護期間と特許期間がそのまま重複するからです。しかし、特許期間のほとんどが臨床試験で費やされるような医薬品にとっては、イノベーターである先発医薬品会社の権利を延長することになるので、より短期間で開発される医薬品と同じような恩恵がもたらされます。その結果、困難でより進行の遅い疾患へのより多くの投資を促進する可能性があります。

 

患者さんへの希望

リリーは、アルツハイマー病患者を対象に試験を継続している開発薬において、この事象を直接経験しています。当該開発薬の米国での特許は間もなく2021年に失効します。しかし、米国で12年、ヨーロッパで10年のデータ保護期間があり、投資へのインセンティブがまだいくらかはあるため、リリーはこの化合物の製造と試験を継続して行っています。データ保護期間がなければ、その開発薬や他の多くの有望な化合物が患者さんに届く望みはないに等しいでしょう。

 

データ保護期間の延長は、不人気なアイデアです。多くの人々は医薬品の価格を手の届く範囲に抑えるためのカギは知財保護期間を短縮することだと信じています。しかし私は、アルツハイマー病の疾患修飾治療薬候補の十分な供給を創出するために必要な投資を促進するために、適切なデータ保護期間は不可欠だと思います。

 

強固な知財制度によって、より多くのブレークスルーが今現在創出されるとともに、将来にはより大きな財政的恩恵がもたらされます。それこそアルツハイマー病の患者さんが期待していることです。患者さんの希望、それは私たちの希望でもありますが、それは今すぐにブレークスルーを発見することです。